認知症等の理由でインスリンの自己注が難しい方が時々おられます。家族の協力があれば継続は可能ですが、それが難しいこともあります。
デグルデクは42時間以上の効果持続が示唆されているので週3回投与とか可能なのかな…と思って調べたところ、いくつか文献が見つかりました。週3回が可能だったら、訪問看護により施行が可能かもしれません。
今回は2つの文献を紹介します。
まずは、グラルギン1日1回投与とデグルデク週3回投与の効果を比較した海外第3相試験から。
Efficacy and safety of insulin degludec three times a week versus insulin glargine once a day in insulin-naive patients with type 2 diabetes: results of two phase 3, 26 week, randomised, open-label, treat-to-target, non-inferiority trials.
(2型糖尿病のインスリン未投与患者におけるデグルデク週3回投与vsグラルギン1日1回投与の有効性と安全性:26週の第3相ランダム化オープンラベル非劣性試験)
Lancet Diabetes Endocrinol. 2013 Oct;1(2):123-31.
PMID: 24622318
【PECO】
P:2型糖尿病のインスリン未投与患者
(平均年齢58歳、男性57%、平均HbA1c 8.3%、平均BMI32)
(AMトライアル:460人、PMトライアル:467人)
E:デグルデク週3回(月水金投与)(AM:230人、PM:233人)
C:グラルギン1日1回(AM:230人、PM:234人)
O:ベースラインから26週間までのHbA1cの減少率
※AMトライアル:午前中にインスリン投与、PMトライアル:午後にインスリン投与
デザイン:無作為化オープンラベル並行群非劣性試験
ITT解析されているか?:されている
脱落率:11%
目標空腹時血糖値:朝食前3.9-5.0mmol/L(70-90mg/dL)
【結果】
主要アウトカム【ベースラインから26週間までのHbA1cの減少率】
〇AMトライアル
E群 vs C群:0.9% vs 1.3%(推定治療差[IDeg 3TW(AM)-IGlarOD]0.34%;95%CI 0.18-0.51)
〇PMトライアル
E群 vs C群:1.1% vs 1.4% (推定治療差[IDeg 3TW(PM)-IGlarOD]0.26%;0.11-0.41)
副次的アウトカム(全てE群 vs C群)
〇HbA1c達成率
AM:48% vs 58%(p=0.0177)
PM:46% vs 54%(p=0.0183)
〇低血糖(SMBG56mg/dL未満):両群を通じて1患者・年あたり1-1.6件
AM:低血糖の推定率比(ERR) 1.04(95%CI:0.69-1.55)
PM:ERR 1.58;95%CI:1.03-2.43)
〇夜間低血糖
AM:ERR 2.12(95%CI:1.08-4.16)
PM:ERR 0.60(95%CI:0.21-4.16)
※重篤な低血糖は,午前試験のデグルデク1件,グラルギン1件,午後試験のデグルデク1件
〇1日当たりの投与量
AM:50U vs 62U
PM:51U vs 56U
〇空腹時血糖(70-90mg/dL達成率)
AM:9.6% vs 16.6%
PM:14.2% vs 26.5%
【考察】
デグルデク週3回とグラルギン1日1回は、有効性として非劣性が示されませんでした。
低血糖に関しては試験によって結果が異なっており、判断が難しいですが、HbA1c空腹時血糖の達成率を考慮すると、グラルギン群の方が厳格にコントロールされてそうではあります。
※なお、アブストラクトしか読むことができなかったため、以下の2つのサイトからいくつかデータを引用しております。
☆持効型インスリン“週3回投与”による血糖管理の非劣性証明できず | ニュース|Medical Tribune
次は、日本の入院中の高齢者を対象としたデグルデク1日1回と週3回を比較した試験を。
Efficacy and safety of thrice-weekly insulin degludec in elderly patients with type 2 diabetes assessed by continuous glucose monitoring.
(持続血糖モニタリングにて評価された2型糖尿病の高齢患者におけるデグルデク週3回投与の有効性と安全性)
Endocr J. 2016 Dec 30;63(12):1099-1106.
PMID: 27593174
【PECO】
P:自己注射が困難な2型糖尿病の日本人入院患者(n=22)
(平均年齢79歳、女性59%、平均BMI22.8、平均HbA1c9.4%)
E:デグルデク週3回倍量投与(月曜日、水曜日、金曜日の昼食前)投与(n=12)
C:デグルデク1日1回
O:平均7日間のグルコースレベル
デザイン:非ランダム化非盲検試験
脱落率:0%
目標血糖値:昼食前150〜200mg/dL(←HbA1c8.0くらいになるように)
※200mg/dLを超える場合は2単位↑、150mg/dLを下回る場合は用量を2単位↓が考慮された
【結果】
主要アウトカム【7日間の平均血糖値】
E群 vs C群:152±30 mg/dL vs 131±25 mg/dL;p=0.11
副次的アウトカム(全てE群 vs C群)
〇7日間の血糖値の平均標準偏差:36±14mg/dL vs 32±10mg/dL;p=0.45
〇血糖値<70mg/dLの割合:1.3±2.5% vs 2.4±3.1%;p=0.39
〇血糖値>200mg/dLの割合:15.6±18.0% vs 7.2±12.1%;p=0.22
〇1日当たりの投与単位数:ベースライン-7.9U vs 11.2U→試験終了時-6.2U vs 9.4U
【考察】
こちらの論文の方が、患者層が思っているものと近いですね。アウトカムとして有意差が認められたものは特になかったですが、症例数が少なかったことも理由かと思います。本文中のFig.2はCGMの結果がグラフになっておりますが、週3回投与群では毎日投与群よりもやや高めになっているように見えます。特に月水金週3回投与なので、日曜日に高い傾向が見られます。血糖値の目標を比較的に高めにしていることもあり、低血糖はそれほど認められなかったようです。
【全体を通して】
毎日の投与と週3回の投与では、週3回投与の方が血糖コントロールは乱れそうです。そのため、毎日の投与が可能であればそちらを優先すべきかと思います。
一方、その差はさほど大きくないようにも思います。厳格な血糖コントロールが必要ではなく、毎日の投与が難しいのであれば、週3回投与は十分検討に値すると思います。症例報告はいくつか見られますが、まだまだ一般的ではないですし、適応外使用になりますので、導入は慎重に、CGMを用いながらの導入が望ましいのではないかと思います。