セロトニンの血小板凝集抑制作用については、日本血栓止血学会のホームページの用語集に以下のように記載されております。
セロトニン受容体は、神経伝達物質セロトニンにより活性化される受容体であり、神経伝達物質やホルモン放出の調節や、神経伝達の活性と抑制を制御しているだけではなく、血小板の活性化にも関与している。血小板に発現する5-HT2A受容体はGタンパクGqに働き、ホスホリパーゼC(PLC)を活性化させる。細胞内カルシウムイオン濃度を上昇させることにより血小板の活性化、凝集を増幅する。血管平滑筋細胞も5-HT2Aを発現しており、止血時には活性化血小板から放出されたセロトニンにより血管平滑筋細胞の5-HT2A受容体が血管収縮を引き起こし、血栓形成と血管閉塞を促している。一方、血管内皮細胞には5-HT1B受容体が発現しており、セロトニン刺激を受けると一酸化窒素(nitric oxide; NO)が遊離され、血管弛緩がおこる。両者の役割により正常血管状態が維持されている。
それゆえにSSRIが種々の出血リスクを高めると言われておりますが、どの程度のリスクがあるのか分からなかったので調べてみることにしました。
まずは、SSRI使用群と非使用群とを比較しての種々の出血リスクに関するメタ解析から
Bleeding risk under selective serotonin reuptake inhibitor (SSRI) antidepressants: A meta-analysis of observational studies.
(SSRI使用下の出血リスク:観察研究のメタ解析)
Pharmacol Res. 2017 Apr;118:19-32.
PMID: 27521835
【PECO】
P:(それぞれの研究の参加者)
E:SSRIの使用
C:SSRI非使用
O:全ての出血リスク
デザイン:42の観察研究のメタ解析(31の症例対照研究(n=1,255,073)、11のコホート研究(n=187,956))
【結果】(全ての出血リスク)(E群 vs C群)
全体:OR 1.41;95%CI:1.27-1.57
症例対照研究:OR 1.41;95%CI:1.25-1.60
コホート研究:OR 1.36;95%CI:1.12-1.64
【コメント】
SSRIの使用にて出血リスクは増加しておりました。OR1.4というのは比較的大きな数字のように思います。アブストラクトのみしか読めておりませんのでどういったLimitationがあるのかや、出血の部位や程度の内訳が分かりません。多くの研究が含まれているので、ある程度信頼できるの結果なのではないかと思います。
次は、上部消化管出血のリスクについて
Use of selective serotonin reuptake inhibitors and risk of upper gastrointestinal bleeding: a systematic review and meta-analysis.
(SSRIの使用と上部消化管出血)
Clin Gastroenterol Hepatol. 2015 Jan;13(1):42-50.e3.
PMID: 24993365
【PECO】
P:(それぞれの研究の参加者)
E:SSRIの使用
C:SSRI非使用
O:上部消化管出血リスク
デザイン:観察研究22件のメタ解析(1,073,000人以上;16の症例対照研究および6のコホート研究)
【結果】
主要アウトカム(上部消化管出血リスク)
E群 vs C群:OR 1.55;95%CI:1.35-1.78
サブ解析
・非ステロイド系抗炎症薬または抗血小板薬による同時治療を受けた患者での関連性が最も高かった。
・同時に制酸剤を服用している患者の上部消化管出血発症リスクの有意な増加は見らなかった。
【コメント】
こちらもアブストラクトのみしか読めておりませんが、SSRI服用にて上部消化管出血リスクが上昇しております。また、NSAIDや抗血小板薬の併用によるリスク上昇や制酸剤の併用によるリスク上昇なしの記載も見られましたが、詳細は不明です。
次は頭蓋内出血について
The impact of selective serotonin reuptake inhibitors on the risk of intracranial haemorrhage: A systematic review and meta-analysis.
(SSRI服用と頭蓋内出血への影響)
Eur Stroke J. 2019 Jun;4(2):144-152.
PMID: 31259262
【PECO】
P:(それぞれの研究の参加者)
E:SSRIの使用
C:SSRI非使用
O:頭蓋内出血リスク
デザイン: 27件の観察研究のメタ解析(4,844,090人/年)
評価者バイアス:2人の評価者が独立して行っている。
元論文バイアス:言語は英語のみ。Funnel Plotあり、問題なし
出版バイアス:観察研究のメタ解析
異質性バイアス:I²は高め。ブロモグラムは概ね一致している。
追跡期間:3.23年(4分位範囲:1.82-5.50年)
【結果】
主要アウトカム(頭蓋内出血リスク)
E群 vs C群:RR 1.26;95%CI:1.11–1.42;I²=76.1%;27試験;n=845,655
サブ解析
☆頭蓋内出血の既往歴有無
頭蓋内出血の既往なし:RR 1.31;95%CI:1.15–1.48;I²=75.4%;24試験;n=824,409
頭蓋内出血の既往あり:RR 0.95;95%CI:0.83–1.09;I²=0%;3試験;n=21,246
☆頭蓋内出血の定義別
出血性脳梗塞:RR 1.40;95%CI:1.13-1.72;9試験;n=577,473;I²=72.7%
脳内出血:RR 1.11;95%CI:0.86-1.42;9試験;n=155,240;I²=86.4%
頭蓋内出血:RR 1.23;95%CI:1.17-1.34;9試験;n=112,942;I²=0%
【コメント】
こちらは全文読めました。
頭蓋内出血についてもSSRIの併用にて有意な増加が示唆されました。全体的に異質性は高めですが、ブロモグラムが大体一致していますので、結果を覆すほどのものではないように考えます。
【全体を通して】
SSRIの服用は非服用者と比較して種々の出血リスクを高めそうです。ただ、これらのメタ解析では比率での評価でしたので、実際どの程度注意しないといけないのかが分かりにくいです。
次回は、その辺りを確認していきたいと思います。