前回に引き続き、認知症と糖尿病の双方向性について見ていきます。
学会で知った文献は前回紹介した2つのみでした (ただメモを取り損ねただけだと思いますが…) ので、pubmedとgoogle scholarにて「dementia」「hypoglycemia」のワードで調べてみました。
いくつか参考になりそうな文献が見つかりましたが、その中から2つ選びました。
Hypoglycemic episodes and risk of dementia in older patients with type 2 diabetes mellitus.
JAMA. 2009 Apr 15;301(15):1565-72.
PMID:19366776
P:北カリフォルニアの統合医療提供システムのメンバーである平均65歳の2型糖尿病患者16,667人
E:入院を要する重症低血糖発症あり
C:入院を要する重症低血糖発症なし
O:認知症リスクの増加
デザイン:縦断コホート研究
2次アウトカム(明示はされていませんが…):発症の回数別でのリスク増加
交絡因子の調節はされているか?:されている。年齢、性別、人種/民族、教育、BMI、糖尿病罹病期間、7年間の平均HbA1c、糖尿病治療、インスリン使用期間、脂質異常症、高血圧、心血管疾患、脳卒中、一過性脳虚血、末期腎障害
傾向スコアマッチングは行われているか?:行われていない。
平均追跡期間:3.8年(中央値:4.8年)
結果
1次アウトカム(入院を要するほどの重症低血糖の認知症へのリスク)
0回vs1回以上:HR 1.44 (95%CI:1.25-1.66)
0回vs1回:1.26 (1.10-1.49)
0回vs2回:1.80 (1.37-2.36)
0回vs3回以上:1.94 (1.42-2.64)
年齢で調節した10,000人当たりの年間認知症発症率:
低血糖なし327.60 (311.02-343.18)vs低血糖あり566.82 (496.52-637.48)(寄与リスク/年:2.39%(1.72-3.01))
同低血糖なしvs低血糖1回491.73(412.60-570.80)(寄与リスク/年:1.64%(0.91-2.36))
vs低血糖2回761.75(561.24-962.27)(寄与リスク/年:4.34%(2.36-6.32))
vs低血糖3回以上755.46 (526.46-984.46)(寄与リスク/年:4.28%(2.10-6.44))
サブ解析(低血糖のリスク因子)(有意差のあるもののみ。ハザード比の記載はなし)
年齢(高齢)、人種(黒人で多め、アジア人で少なめ)、医療機関の利用割合(頻度が高い方)、罹病期間(長い方)、心疾患、心筋梗塞、末期腎障害、HbA1c(高い方)、DM治療薬(インスリン使用群)、インスリン使用期間(長い方)
→n数が多いので、αエラーが発生しているものもありそう。
感想
重症低血糖と認知症の関連はありそうですし、1回と2回以上でも差はありそうです。それ以上の回数についてはよく分かりません。
また、重症低血糖の発生は平均で年2%強、2回以上なら年4%の認知症のリスク上昇が示唆されております。これはかなり大きな数字のように思います。
リスク因子に関しては、αエラーになっているものもありそうなので、なかなか判断が難しい印象です。
なお、低血糖の回数別の認知症リスクはこちらの台湾の文献でも検討されています。ただ、2回以上のイベント発症者が少なく、そのあたりは参考にならないかもしれませんが、おおむね同じような傾向のように思います。
Severe hypoglycemia is associated with antidiabetic oral treatment compared with insulin analogs in nursing home patients with type 2 diabetes and dementia: results from the DIMORA study.
J Am Med Dir Assoc. 2015 Apr;16(4):349.e7-12.
PMID:25669671
P:イタリアの150の高齢者施設に入所している合計2,258人の糖尿病患者(認知症1,138人、認知症なし1,120人)
E:認知症有
C:認知症なし
O:重篤な低血糖の発症率、重篤な低血糖と治療薬(経口、インスリン)との関連
デザイン:横断的観察研究
サブ解析:糖尿病および非糖尿病における、低血糖発症患者、非発症患者の患者特性
交絡因子の調整は?:Table4(重篤な低血糖と治療薬(経口、インスリン)との関連)のみされている?
低血糖の定義:血糖値50 mg/dL(2.8 mmol/L)以下でかつ、経口ブドウ糖、静注ブドウ糖、非経口グルカゴンを投与するのに第3者の補助が必要な状態
結果
1次アウトカム(重篤な低血糖の発症率)
認知症群202人(18%)vs非認知症群87人(8%);P<0.001
1次アウトカム(重篤な低血糖と治療薬(経口、インスリン)との関連)
SU剤:8.805(4.260-18.201)
メトホルミン+SU剤:6.639(3.273-14.710)
超短時間型インスリン:0.333(0.184-0.602)
長時間型インスリン:0.248(0.070-0.882)
感想
治療薬による低血糖リスクについて、経口薬とインスリンのどちらが高いかというのは文献によって結果が異なるので、なんとも難しい所です。
特別に取り上げませんでしたが、以下4のつの文献もピックアップして読んでみましたので、紹介だけしておきます。
Diabetes Care. 2014 Feb;37(2):507-15.PMID:24103900
Hypoglycaemic episodes and risk of dementia in diabetes mellitus: 7-year follow-up study.
J Intern Med. 2013 Jan;273(1):102-10.PMID:23003116
J Am Geriatr Soc. 2011 Dec;59(12):2263-72.PMID:22150156
Diabetes Res Clin Pract. 2016 Dec;122:54-61.PMID:27810686
全体を通して
低血糖と糖尿病の双方向性が示唆される結果となりました。個人的には、特別意外ではないですが。ただ、その度合いというのが文献を読んで何となく分かりましたし、重篤な低血糖→認知症の度合いのインパクトは個人的には大きいものでした。
下げ過ぎてもいけない、高すぎてもいけない。どの薬を選択するのか。悩ましですね。