前回(SSRIと出血リスクもろもろ-2(観察研究) - リンコ's ジャーナル)、前々回(SSRIと出血リスクもろもろ-1(メタ解析) - リンコ's ジャーナル)はSSRI単独による出血リスクに関する論文を紹介しましたが、今回はSSRIと出血リスクのある薬剤との併用による出血リスクについての論文の紹介を。
まずはSSRIとNSAIDの併用から
Risk of upper gastrointestinal bleeding with selective serotonin reuptake inhibitors with or without concurrent nonsteroidal anti-inflammatory use: a systematic review and meta-analysis.
(NSAIDの併用有無による上部消化管出血)
Am J Gastroenterol. 2014 Jun;109(6):811-9.
PMID: 24777151
【PECO】
P:SSRIの服用患者
E:NSAIDの服用
C:NSAIDの非服用
O:上部消化管出血
デザイン: 観察研究のメタ解析(15件の症例対照研究(参加者393,268人)と4件のコホート研究)
【結果】
上部消化管出血リスク(症例対象研究)
SSRI単独:OR 1.66;95%CI:1.44-1.92;I²=77%;15試験
NSAID単独:OR 2.8;95%CI:2.2-3.56
SSRIとNSAID併用:OR 4.25;95%CI:2.82-6.42;I²=80%;10試験
【考察】
SSRIとNSAIDの併用にてそれぞれの単独の出血リスクよりもリスクが上昇することが示唆されました。服用していない群と比較してオッズ比4というのは比較的インパクトのある数字のように感じます。
次は、抗血小板薬とSSRIとの併用について
Risk of bleeding associated with combined use of selective serotonin reuptake inhibitors and antiplatelet therapy following acute myocardial infarction.
(急性心筋梗塞後の抗血小板療法とSSRIの併用と出血リスクの関連)
CMAJ. 2011 Nov 8;183(16):1835-43.
PMID: 21948719
【PECO】
P:1998年1月から2007年3月までの急性心筋梗塞後、抗血小板療法を受けて退院した50歳以上の患者(n=27,058)
E:SSRIの服用
C:SSRIの非服用
O:種々の出血イベント、入院が必要な出血イベント
デザイン:後ろ向きコホート研究
調節された交絡因子:心臓血管手術、冠動脈バイパス手術、出血性脳卒中、胃内視鏡検査、退院時の非選択的非ステロイド性抗炎症薬の使用、退院時のCOX-2阻害剤の使用、Fig3で出血リスクとの関連が明らかになった項目(年齢、腎不全、うっ血性心不全、貧血などの血液疾患、退院時の抗凝固薬・ステロイドの服用、過去の血糖降下薬・降圧薬の服用)、消化性潰瘍疾患の既往、消化管出血以外の出血の既往、消化器科専門医の受診歴、研究薬物への曝露、および選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)以外の抗うつ薬の使用、ピロリ除菌薬の使用、抗血小板薬の使用、基準前の年のアセチルサリチル酸(ASA)とクロピドグレル、および胃保護剤(PPI、H2RA)の使用
【結果】
HR |
100患者/年(95%CI) |
||
全ての出血イベント |
入院が必要な出血イベント |
||
アスピリン |
reference |
1.12 (1.03-1.20) |
0.65 (0.59-0.72) |
クロピドグレル |
1.15 (0.87-1.51) |
1.55 (1.19-2.02) |
1.05 (0.77-1.45) |
アスピリン+クロピドグレル (DAPT) |
1.49 (1.28-1.75) |
2.08 (1.83-2.37) |
1.35 (1.15-1.58) |
アスピリン+SSRI |
1.42 (1.08-1.87) |
1.61 (1.26-2.08) |
0.95 (0.69-1.32) |
DAPT+SSRI |
2.35 (1.61-3.42) |
3.63 (2.55-5.16) |
2.69 (1.79-4.05) |
クロピドグレル+SSRI |
1.76 (0.83-3.73) |
2.43 (1.26-5.10) |
1.04 (0.34-3.23) |
クロピドグレル+SSRI vs クロピドグレル:HR 1.54;95%CI:0.70-3.39
DAPT+SSRI vs DAPT:HR 1.57;1.07-2.32
【感想】
SSRIの追加にていずれもにおいてリスクが高まる印象です。一部は症例数の不足がありそうですが、おそらく上昇するでしょう。もともと出血リスクのある薬剤なので、併用時はさらなる注意喚起が必要な印象です。特にDAPTはリスクが高そうですね。
次はワーファリンとSSRIの併用について
Effect of selective serotonin reuptake inhibitors on bleeding risk in patients with atrial fibrillation taking warfarin.
(心房細動にてワルファリンを服用している患者のSSRIの出血への影響)
Am J Cardiol. 2014 Aug 15;114(4):583-6.
PMID: 25001151
【PECO】
P:9,186人のワルファリンを服用しているAf患者
E:SSRIまたは三環系抗うつ薬の服用
C:抗うつ薬の非服用
O:入院を伴う大出血(致死的な出血イベント、2 単位以上の輸血を必要とする出血イベント、または解剖学的に重要な部位(頭蓋内、後腹膜、または視力を損なう眼内など)への出血イベント)
デザイン:後ろ向きコホート研究
調節された交絡因子:ATRIA bleeding risk score、PT-INR>3
【結果】(主要アウトカム:入院を伴う出血)
調節相対リスク(95%CI) |
|||
抗うつ薬なし |
SSRI併用 |
TCA併用 |
|
全ての大出血 |
Reference |
1.41 (1.04-1.92) |
0.82 (0.46-1.46) |
頭蓋内出血 |
Reference |
1.50 (0.90-2.51) |
1.36 (0.82-2.28) |
頭蓋外出血 |
Reference |
1.36 (0.82-2.28) |
0.76 (0.36-1.62) |
※年間発症率
抗うつ薬なし:1.35/100人/年
SSRI:2.32/100人/年;p<0.001(抗うつ薬なしとの比較)
TCA:1.30/100人/年;p=0.94(抗うつ薬なしとの比較)
【感想】
SSRIおよびTCAの出血イベントが少なめ(それぞれ45例、12例)ですし、他の出血に関連のある薬剤が調整されていないのも気になりますが。
ワーファリンに関してもSSRIの併用にて出血リスクは高まりそうです。ワーファリンにて出血リスクが高まっている状態であるので、注意していきたいものです。
次は最後、DOACとSSRIの併用について
Risk of major bleeding among users of direct oral anticoagulants combined with interacting drugs: A population-based nested case-control study.
(相互作用を引き起こすDOACとの組み合わせの使用者における大出血リスク)
Br J Clin Pharmacol. 2020 Feb 5.
PMID: 32022295
【PECO】
P: DOACの合計23,492人の新規ユーザーのうち大出血患者393人とマッチングした1494人(最大1:4でマッチング)
E:DOACと相互作用を引き起こす可能性のある薬剤の併用
C:DOAC単独
O:大出血リスク
デザイン: コホート内症例対象研究
調節された交絡因子:喫煙、アルコール乱用、出血イベント前の脳卒中または一過性虚血発作の既往、糖尿病、高血圧、心筋梗塞、うっ血性心不全、慢性腎疾患、肝障害、末梢血管疾患、慢性肺疾患、消化性潰瘍疾患、がん、基準日前の薬の服用(β遮断薬、ACEI、非p-gp阻害薬、スタチン、PPI、CYP450酵素誘導薬)、DOACと薬物動態相互作用および薬力学的相互作用の可能性がある薬剤。
平均年齢:78歳、75歳以上:70%、男性:60%
【結果】
大出血:SSRI群10.4% vs control群6.4%;aOR 1.68;95%CI:1.10-2.59
消化管出血:SSRI群8.9% vs control群6.9%;aOR 1.25;95%CI:0.62-2.53
DOACの種類別(大出血リスク)
アピキサバン:SSRI群11.3% vs control群4.7%;aOR 2.78;95%CI:0.78-9.91
ダビガトラン:SSRI群12.7% vs control群5.5%;aOR 2.70;95%CI:1.09-6.70
リバーロキサバン:SSRI群9.6% vs control群7.3%;aOR 1.23;95%CI:0.73-2.07
【感想】
SSRI以外の薬剤との相互作用のリスクのある薬剤についても解析されていますが、ここではSSRIのみを切り取りました。やはり出血は高まる傾向にあるようです(これも症例数が少なく、95%CIが広くなっているのは少し気になりますが)。DOACの種類別に関しては症例数が少ないので、あくまで参考程度かと思います。
【全体を通して】
NSAID、抗血小板薬、抗凝固薬はいずれもSSRIの併用にてリスクが高まる傾向にあるようです。ぞれぞれの薬剤が出血リスクのある薬剤ですので、併用の場合には十分な注意が必要かと思います。