リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

ワルファリン・DOACもろもろ-3【DOACとベラパミルの併用を考える】

ある日医師より問い合わせがありました。

「Aさんは○○(DOACの1種)を飲んでるんだけど、ベラパミルを開始したくて。正直どのDOACでもいいんだけど、DOACとベラパミルは相互作用があるってよく聞くから。影響が少なそうなのを教えてくれないかな?この間鼻出血があったから低用量にしたばかりなんだけどね。」

 

「鼻出血したからといって低用量でいいのか??」という疑問も出ましたが、それはさておき。

DOAC4種とベラパミルの相互作用を調べてみることにしました。

 

まずはそれぞれの用量を整理しておきます。

成分名

商品名

高用量

低用量

ダビガトラン

プラザキサ

300mg/分2

220mg/分2

リバーロキサバン

イグザレルト

15mg/分1

10mg/分1

アピキサバン

エリキュース

10mg/分2

5mg/分2

エドキサバン

リクシアナ

60mg/分1

30mg/分1

 

まずIFにて、各種DOACとベラパミルとの併用によるAUCの上昇に関する記載を確認しました。(記載のなかったリバーロキサバン、アピキサバンは類似薬についての記載を転記します)

成分名

IFの記載内容

ダビガトラン

ベラパミル塩酸塩(経口剤)との併用によりダビガトランの血中濃度が上昇することがあるため,本剤1回110mg1日2回投与を考慮すること。また,本剤服用中に新たにベラパミル塩酸塩(経口剤)の併用を開始する患者では,併用開始から3日間はベラパミル塩酸塩服用の2時間以上前に本剤を服用させること。

(ベラパミルを本剤投与の1時間前に単回経口投与した場合,総ダビガトランのAUC0-∞及びCmaxの幾何平均値はそれぞれ2.43倍及び2.79倍に増加したが,ベラパミルの反復経口投与において本剤をベラパミルの2 時間前に投与した場合,臨床的に問題となる相互作用は認められなかった(AUC0-∞は1.18倍,Cmaxは1.12倍に増加))。

リバーロキサバン

記載なし

類似薬のクラリスロマイシン、エリスロマイシンについては記載あり(健康成人男子15例にクラリスロマイシン500mgと本剤10mgを併用投与した際、本剤のAUCは1.5倍、Cmaxは1.4倍上昇した。

健康成人男子15 例にエリスロマイシン500mgと本剤10mgを併用投与した際、本剤のAUC及びCmaxはともに1.3倍に上昇した。)

アピキサバン

ベラパミルの記載はなし

類似薬のジルチアゼムについては記載あり(外国人健康成人 18 例を対象に、ケトコナゾールより弱いCYP3A4及びP-gp阻害剤である ジルチアゼム(1回360mg 1日1回経口投与)とアピキサバン(10mg単回経口投与)を併用したとき、アピキサバンのCmax及び AUCの平均値はアピキサバン単独投与と比較して、それぞれ約1.3及び約1.4倍に増加した。)

エドキサバン

P-gp阻害作用を有する薬剤であるベラパミル(240mg/日)とエドキサバン60mgを併用したとき、エドキサバンのCmax及びAUC は、ともに1.5倍に上昇した。

 

次に、各種DOACとケトコナゾールの相互作用によるAUC上昇率を利用して、PISCS(Pharmacokinetic Interaction Significance Classification System)を使ってのベラパミルとの併用によるAUCの上昇を推定してみます。(今回はCYP3A4だけじゃなくてP-gpの関わりが大きいので、どこまで参考になるかは分かりませんが…)

ダビガトラン:約1.7倍

リバーロキサバン:約1.8倍

アピキサバン:約1.5倍

エドキサバン:約1.5倍

 

さらに、文献検索をしました。(「それぞれのDOAC」+「verapamil」+「pharmacokinetics」にて検索しております。)

成分名

参考文献

記載内容

ダビガトラン

Oral bioavailability of dabigatran etexilate (Pradaxa(®) ) after co-medication with verapamil in healthy subjects.

Br J Clin Pharmacol. 2013 Apr;75(4):1053-62.

PMID: 22946890

同時投与にてAUC約2.1倍、ベラパミルの2時間前投与にてAUC約1.18倍(有意差なし)

リバーロキサバン

Impaired Rivaroxaban Clearance in Mild Renal Insufficiency With Verapamil Coadministration: Potential Implications for Bleeding Risk and Dose Selection.

J Clin Pharmacol. 2018 Apr;58(4):533-540.

PMID: 29194698

ベラパミルとの併用で、軽度の腎不全群ではAUCが1.39倍、正常群では1.43倍に増加させた

アピキサバン

参考文献は見当たらず。

オーストラリアの添付文書(?)に記載あり。

http://www.medicines.org.au/files/bqpeliqu.pdf

用量調節不要との記載。類似薬であるクラリスロマイシン、ジルチアゼムとの併用によるAUCの上昇はそれぞれ1.6倍、1.4倍

エドキサバン

 

Drug-drug interaction studies of cardiovascular drugs involving P-glycoprotein, an efflux transporter, on the pharmacokinetics of edoxaban, an oral factor Xa inhibitor.

Am J Cardiovasc Drugs. 2013 Oct;13(5):331-42.

PMID: 23784266 

ベラパミルとの併用でAUC1.5倍

 

最後にDOACとその併用薬との相互作用による出血アウトカムを検討した文献を見ていきます。

Association Between Use of Non-Vitamin K Oral Anticoagulants With and Without Concurrent Medications and Risk of Major Bleeding in Nonvalvular Atrial Fibrillation.

JAMA. 2017 Oct 3;318(13):1250-1259.

PMID: 28973247

(参考:抗血栓療法トライアルデータベース→ http://att.ebm-library.jp/trial/detail/62570.html)

【PECO】

P:非弁膜性心房細動患者91330人にて(平均年齢74.7(SD10.8)歳、男性55.8%、DOAC暴露:ダビガトラン45347人、リバーロキサバン54006人、アピキサバン12886人)

E:DOACとの相互作用のある併用薬あり(P糖蛋白阻害剤:ジゴキシン、ベラパミル、ジルチアゼム、アミオダロン、シクロスポリン;CYP3A4阻害剤:フルコナゾール、ケトコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、ポサコナゾール;両方に該当:アトルバスタチン、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ドロネダロン、リファンピシン、フェニトイン)

C:併用薬なし

O:頭蓋内出血、消化管・泌尿器・その他出血の一次診断による入院、救急受診と定義された大出血。

 

デザイン:後ろ向きコホート研究(台湾)

プロペンシティスコアの因子: sex, age, medical utilization, chronic kidney disease stage, anemia, myocardial infarction, congestive heart failure, peripheral vascular disease, cerebrovascular disease, dementia, chronic pulmonary disease, rheumatic disease, peptic ulcer disease, mild liver disease, diabetes, hemiplegia or paraplegia, any malignancy, moderate or severe liver disease, metastatic solid tumor, acquired immune deficiency syndrome, percutaneous coronary intervention, coronary artery bypass surgery, transient ischemic attack, hypertension, aspirin, clopidogrel, ticagrelor, ticlopidine, warfarin, glucocorticoids, insulin, lipid-lowering agents, hypoglycemic agents, antihypertensive, nonsteroid anti-inflammatory drugs, proton pump inhibitors, residence, income level, and occupation

Limitation:エドキサバンについては検討されていないこと。腎機能・肝機能が不明であったこと。

 

【結果】

主要アウトカム(併用薬剤別の出血リスクの検討)

f:id:gacharinco:20190119101208p:plain

(本文にはこの他に、DOAC別、出血部位別(頭蓋内、消化管、その他)の解析もあり)

 

【考察】

薬剤別でリスクが上昇したり、逆に減少したりというのがあったようですが。。。

プロペンシティスコアにてかなり調節されていますが、他にも様々な交絡因子が考えられると思います。用量調整の有無や、相互作用が疑われる薬剤の併用に関しては2剤以上の併用や類似薬剤の使用なども検討すべきではないかと。難しいとは思いますが。。。あとは心筋梗塞等のイベントの発生率も気になります。

なので、あまり参考にならないかもしれません。

 

 

【全体を通して】

 全ての薬剤で血中濃度の上昇が見込まれそうです。おそらく紹介した文献ではベラパミルの投与量は240mg/日が基準になっていると思いますので、日本の投与量と違うことに注意が必要ですし、120mg/日では同じ結果にならないかもしれません。

ダビガトランは服用タイミングをずらせばよいのかもしれませんが、それはさすがに面倒。。。

リバーロキサバンはAUCが1.4倍になるということで、高用量を投与しているのとほとんど同じになる。

アピキサバンとエドキサバンは相互作用を受けてもAUCが高用量と同等までには到達しない可能性が高いのかなと。なので、この2剤から選ぶのが無難なのかなと思います。逆に、ベラパミルを併用するからといってむやみに低用量に減量すると高用量ほどの効果が得られなくなる可能性や、ベラパミル併用によりいずれのDOACでも血中濃度が上昇する可能性を示唆しているのではないかと思います。