リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

小児の近視進行抑制への介入もろもろ‐2(アトロピン点眼の有効性と安全性)

今回はアトロピン点眼の有効性と安全性についての論文を紹介します。

 

Efficacy and Adverse Effects of Atropine in Childhood Myopia: A Meta-analysis.

(子供の近視へのアトロピンの有効性と有害事象:メタ解析)
JAMA Ophthalmol. 2017 Jun 1;135(6):624-630.
PMID: 28494063

【PECO】

P:近視の18歳未満の患者3,137人

E:アトロピン点眼(高用量(0.5%,1.0%)、中等量(0.01%~0.5%)、低用量(0.01%))

C:コントロール

O:アトロピン点眼の濃度別での1年間の近視の進行(ジオプトリー(D)、軸長の長さ)、有害事象

 

デザイン:7件のRCTおよび9件のコホート研究のメタ解析

評価者バイアス:2人の評価者が独立して行っている

出版バイアス:英語のみ。Funnel Plotなし

元論文バイアス:RCTもコホート研究も含まれる

異質性バイアス:異質性は高め。ブロモグラムは概ね一致している

 

【結果】

主要アウトカム【近視進行の加重平均差/年(WMD)】

高用量アトロピン(0.5%,1.0%):0.62D/年(95%CI:0.45-0.79D)(11試験;n=2,067;I²=98%)

中等量アトロピン(>0.01% to <0.5%):0.57D/年(95%CI:0.43-0.71D)(4試験;n=369;I²=67%)

低用量アトロピン(0.01%):0.50D/年(95%CI:0.24-0.76D)(1試験;n=60)

 

主要アウトカム【軸長の変化の加重平均差/年】

高用量アトロピン:−0.27mm(95%CI:−0.36 to −0.17mm)(5試験;n=1,018;I²=98%)

 

有害事象

〇羞明(用量別):高用量 43.1%(95%CI:16.2%-71.7%)、中等量アトロピン 17.8%(95%CI:5.8%-33.9%)、低用量アトロピン 6.3%(95%CI:0.1%-17.9%)

 

 【考察】

RCTおよびコホート研究が混在しており、全体として異質性の高い研究となっておりますが、Funnel Plotの向きは概ね一致しているので、結果は支持できるのではないかと思います。

アトロピンの有効性は示唆されましたが、濃度による有効性の違いはあまりなさそうです。ただ、濃度が高い方が有害事象としての羞明の発現率が高いようなので、低濃度での使用が勧められるのかもしれません。

 

 

さて、もう一つ。今度は低用量(0.05%,0.025%0.01%)のアトロピン点眼の研究を。

Low-Concentration Atropine for Myopia Progression (LAMP) Study: A Randomized, Double-Blinded, Placebo-Controlled Trial of 0.05%, 0.025%, and 0.01% Atropine Eye Drops in Myopia Control.

(低濃度アトロピンによる近視進行の研究(LAMP):近視コントロールのための0.05%,0.025%0.01%のアトロピンによる2重盲検RCT)

Ophthalmology. 2019 Jan;126(1):113-124.

PMID: 30514630

【PECO】

P:少なくとも-1.0ジオプター(D)の近視と-2.5D以下の乱視を持つ4〜12歳の子供438人

E:0.05%、0.025%、0.01%のアトロピン点眼薬

C:プラセボ点眼液

O:ジオプトリー(D)、軸長の長さ(mm)の1年間の変化の差の平均、有害事象としての羞明(まぶしさ)

 

デザイン:二重盲検RCT

ITT解析:されていると書いてあるが、脱落者は解析されてなさそう

脱落率:12.5%

 

【結果】(mean±SE)

 

0.05%

0.025%

0.1%

プラセボ

SE変化の平均(D)

-0.27±0.61

-0.46±0.45

-0.59±0.61

-0.81±0.53

AL増加の平均(mm)

 0.20±0.25

 0.29±0.20

 0.36±0.29

 0.41±0.22

羞明

31.2%

18.5%

5.5%

12.6%

 

【考察】

濃度の高い方が効果は高かったが、有害事象の発現率は高まったという結果となりました。高濃度(といっても0.05%)を使用して副作用が出れば低濃度へ、という流れがいいのかなとも思いますが、対象が小児なので一度副作用が出てしまうと今後のアドヒアランスにも影響しそうなので、使用する際には十分な注意が必要かと思います。

 

【全体を通して】

アトロピン点眼は小児の近視進行の抑制に有効といえそうです。濃度による有効性の差については、研究によって見解が異なるようです。その一方、有害事象の発現率は濃度の依存しそうです。そのため、どの濃度が有効性と安全性に優れているのかが現段階では不明です。現在いくつかの試験が進行中のようですので、今後の報告に期待したいと思います。ちなみに、日本でのアトロピン点眼の発売は現在のところ1%のみです。私が眼科の門前の薬局で働いていた時はトロピカミド(サンドールMY0.4%®)の処方箋を時々受けていました。アドヒアランスがかなり悪く、ほとんどの方が途中で治療を中断していた記憶があります。