リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

薬と認知症の関連もろもろ-1【ベンゾジアゼピン系薬】

薬剤の服用と認知症発症との関連についての論文について、何回かに分けて書いていきます。

今回は【ベンゾジアゼピン系薬】との関連について。

 

 

まず、観察研究のメタ解析を。

Risk of Dementia in Long-Term Benzodiazepine Users: Evidence From a Meta-Analysis of Observational Studies

(長期ベンゾジアゼピン使用者における認知症リスク)

J Clin Neurol . 2019 Jan;15(1):9-19.

PMID: 30375757

 

【PECO】

P:(各研究の参加者)

E:ベンゾジアゼピン系薬の使用

C:ベンゾジアゼピン系薬の非使用

O:認知症発症

 

デザイン:観察研究のメタ解析(6件の症例対照研究と4件のコホート研究) (参加者171,939人;認知症42,025人)

評価者バイアス:2人の評価者が独立して抽出を行っている

出版バイアス:言語制限なし、Funnel Plotあり→外れているプロットが多い

元論文バイアス:観察研究のメタ解析。

異質性バイアス:I²は高め。ブロモグラムはまずまず一致。

Limitation:観察研究のメタ解析であること。作用時間に関するデータが少なかった。個別のデータが把握できておらずそれぞれの成分や用量での違いは不明

 

【結果】(E群 vs C群)

主要アウトカム【認知症発症リスク】

RR 1.51;95%CI:1.17–1.95;I²=97%;10試験

 

サブ解析【認知症発症リスク】

☆研究デザイン別

〇コホート研究:RR 1.26;95%CI:1.03-1.55;I²=53.5%;4試験

〇症例対象研究:RR 1.57;95%CI:1.11-2.23;I²=98.3%;6試験

 

☆服用期間別

3年以上 vs 3年未満:RR 1.21;95%CI:1.04-1.40;I²=12.7%;4試験

 

☆半減期別

20時間以上 vs 20時間未満:RR 1.16;95%CI:0.95-1.41;1²=77.6%;4試験

 

【考察】

全体としては、ベンゾジアゼピン系薬の使用にて認知症リスクは高まり、また服用期間が長い方が、半減期が長い薬剤の方がリスクが高いという結果となりました。異質性が高いため、解釈には注意が必要と思います。試験間で条件が異なったのかもしれませんが、ブロモグラムは概ね一致しており(少なくとも有意にリスクを下げたという結果はあない)、リスクは上昇するのではないかという印象です。

 

 

次は、このメタ解析のあとに発表された論文で、認知症リスク上昇と関連しなかった論文を紹介します。

History of Benzodiazepine Prescriptions and Risk of Dementia: Possible Bias Due to Prevalent Users and Covariate Measurement Timing in a Nested Case-Control Study

(ベンゾジアゼピン処方歴と認知症リスク:コホート内症例対象研究)

Am J Epidemiol . 2019 Jul 1;188(7):1228-1236.

PMID: 31111865

 

【PECO】

P:2006年4月から2015年7月までの間に診断された40,770例の認知症患者と1:7でマッチングされた283,390人(英国のClinical Practice Research Datalinkのコホート)

E:ベンゾジアゼピン系薬の使用

C:ベンゾジアゼピン系薬の非使用

O:認知症発症

 

デザイン:コホート内症例対象研究

マッチングされているか?:年齢、性別、available data history、経済状況

調整された交絡因子:糖尿病;糖尿病合併症;高脂血症/脂質異常症;高血圧;脳卒中/一過性脳虚血発作;うっ血性心疾患;心不全;末梢動脈疾患;心房細動;狭心症;心筋梗塞;冠動脈手術、深部静脈血栓症、うつ病、尿失禁、パーキンソン病、重度の精神疾患、薬物乱用、てんかん、不安、不安症状、不眠、疲労、またはその他の睡眠障害、片頭痛、頭痛、腰・首の痛み、および神経障害性疼痛、転倒、骨折、受診回数、および選択的セロトニン再取り込み阻害薬、三環系抗うつ薬、または抗精神病薬の処方の有無、喫煙状況(なし、元、現在)、BMI(<20、20-24.9、25-29.9、≧30)、有害なアルコール使用量(男性は週49単位以上、女性は週35単位以上)

追跡期間の中央値:7.1(4.0-11.3)年、基準日の年齢の中央値:83(78-87)、女性:63%

Limitation:観察研究であること、交絡因子の設定が不適当な可能性があること

 

【結果】

主要アウトカム【対象薬剤の服用日数(The number of DDD during DEP)別の認知症発症リスク】

f:id:gacharinco:20200711171000p:plain

※DDD(defined daily doses):1日の薬剤の基準となる投与量

※DEP(drug-exposure period):基準日の4年前から20年前

 

副次的アウトカム【vs 非使用者】

〇新規使用者:aOR 1.03;95%CI:1.00-1.07

〇既使用者 :aOR 0.91;95%CI:0.87-0.95

 

【考察】

こちらは一貫してベンゾジアゼピン系薬の服用と認知症の発症リスクは関連しなかったという結果でした。

交絡因子はかなりの数が調整されておりますが、何を使用するのかというのは大変悩ましいように思います。調整しすぎな印象もあります。

 

 

最後に、ベンゾジアゼピン系薬の中止期間と認知症リスクについてのサブ解析が行われていた研究を紹介します。

※アブストラクトのみしか読めなかったため、デザインの詳細は不明です。

Effect of Benzodiazepine Discontinuation on Dementia Risk

(認知症リスクに対するベンゾジアゼピン系薬中止の効果)

Am J Geriatr Psychiatry . 2011 Feb;19(2):151-9.

PMID: 20808131

 

【PECO】

P:1997年から2007年の間に台湾の国民健康保険研究データベースに登録された45歳以上の全対象者から無作為に抽出された認知症患者8,434人と1:2でマッチングされた16,706人

E:ベンゾジアゼピン系薬の使用

C:ベンゾジアゼピン系薬の非使用

O:認知症発症

 

デザイン:コホート内症例対象研究

 

【結果】

主要アウトカム【認知症リスク(E群 vs C群)】

E群 vs C群:調整オッズ比(aOR) 2.71 ; 95%CI:2.46-2.99

 

サブ解析

〇中止期間による認知症リスクの差

1ヵ月未満  :aOR 2.40 ; 95%CI:1.98-2.92

1-3ヵ月未満 :aOR 1.93 ; 95%CI:1.67-2.23

3-6ヵ月未満 :aOR 1.49 ; 95%CI:1.28-1.74

6-12ヶ月未満  :aOR 1.43 ; 95%CI:1.25-1.64

1-2年    :aOR 1.23 ; 95%CI:1.09-1.40

2-3年    :aOR 1.22 ; 95%CI:1.06-1.40

>3年     :aOR 1.08 ; 95%CI:0.98-1.20

※減少傾向は有意であった(p<0.001)

 

【考察】

ベンゾジアゼピン系薬服用により認知症リスクは高まり、またそれは中止期間が長期になるほどリスクが低くなるという結果となりました。アブストラクトのみしか読めておりませんので、調節した交絡因子等の解析方法が気になります。

一つの論文しか読めておりませんが、中止期間との関連が示唆されました。

 

 

【全体を通して】

ベンゾジアゼピンと認知症との関連については、関連があることを示唆している研究が優勢な印象です。ただ、全て観察研究であり、交絡因子がかなり複雑なため、どこまで正確にオッズ比として現れているのかは不明です。そのあたりについては、以下の青島周一先生が日経メディカルオンラインのコラムをご覧いただければと思います。 

今回はここで示した論文をいくつか見ましたが、交絡因子に関しては解釈が難しかったです。特に「認知症」の発症日や診断基準はあいまいなので、そこがいわゆるハードアウトカムとは違い難しいところのように感じました。