今回は認知症と【PPI】との関連についての論文を。
PPIに関しては、観察研究のメタ解析がいくつも報告されておりますが、認知症との関連が示唆された論文とそうでない論文がありますので、それぞれを紹介します。
それでは1つ目。こちらは認知症との関連が示唆された論文です。
Proton pump inhibitor use does not increase dementia and Alzheimer's disease risk: An updated meta-analysis of published studies involving 642305 patients
(PPIは認知症とアルツハイマー病のリスクを増やさない)
PLoS One . 2019 Jul 2;14(7):e0219213.
PMID: 31265473
【PECO】
P:10件の観察研究に含まれた参加者642305人
E:PPI服用
C:PPI非服用
O:認知症およびアルツハイマー病(AD)発症
デザイン:観察研究(コホート研究+症例対象研究)
評価者バイアス:2人の著者が独立して抽出した。
出版バイアス:英語のみ。Funnel Plotあり→外れているものが多い
元論文バイアス:観察研究のメタ解析
異質性バイアス:I²は高め。
Limitation:未発表の論文・抄録・レターは含んでいない。言語が英語のみ。症例対象研究がほとんどであり、選択バイアス、想起バイアスが生じた可能性。
【結果】
主要アウトカム【認知症およびADリスク】
全ての認知症リスク:HR 1.04;95%CI:0.92–1.15;I²=95.6%;10試験;n=642,305
ADリスク:HR 0.96;95%CI:0.83–1.09;I²=80.7%;5試験;n=421,079
サブ解析【研究デザイン別の認知症およびADリスク】
〇全ての認知症リスク
コホート研究:HR 1.15;95%CI:0.81-1.49;I²=93.1%
非コホート研究:HR 0.97;95%CI:0.86-1.07;I²=94.8%
〇ADリスク
コホート研究:HR 1.06;95%CI:0.70-1.41;I²=67.6%
非コホート研究:HR 0.96;0.81-1.11;I²=90.9%
【考察】
認知症およびADとPPI服用との関連は示唆されず。
全体としてI²が高めであることには注意が必要かと思います。たしかにそれぞれの論文では、認知症との関連が示されたり、そうでなかったり、逆に減ったりと、結果にややばらつきがありました。おそらく交絡因子がたくさんあるとは思いますので、それがどこまで調整されているかというのも重要かと思います。
個別の論文を読んでも良かったのですが、どれを読めばいいかよく分からず…
では2つ目。こちらは認知症との関連が示唆されなかった論文です。
Proton pump inhibitors use and dementia risk: a meta-analysis of cohort studies
P:6つの研究の参加者の合計166,146人
E:PPI使用
C:PPI非使用
O:認知症発症
デザイン:コホート研究のメタ解析
【結果】
主要アウトカム【認知症発症】
HR 1.29;95%CI:1.12-1.49
サブ解析
ヨーロッパの試験のみ:HR 1.46;95%CI:1.23-1.73
65歳以上の参加者:HR 1.39;95%CI:1.17-1.65
追跡期間5年以上:HR 1.28;95%CI:1.12-1.46
【考察】
こちらの論文はアブストラクトのみしか読めなかったので詳細が分からず…
PPIと認知症との関連が示唆されましたが、I²がアブストラクトには示されておらず。ただ、1つ目に示した論文も類似のメタ解析も全てI²は大きな数字になっていたので、おそらく似たような感じなのかなと思います。
ちなみに以下の論文にて、PPIが認知症リスクを増加させるメカニズムとしてのPPIの作用機序の発見が報告されております。
Alzheimers Dement . 2020 Jul;16(7):1031-1042.
PMID: 32383816
【全体を通して】
PPIと認知症の関連についてはよく分かりませんでした。ちなみに類似のメタ解析がいくつか出ておりますが、認知症との関連を示さない論文の方が多い印象です。
ただ、その機序に関する論文も報告されているので。。。
あとは交絡因子の問題も大きいかと思います。
質の高い研究やそのメタ解析が待たれますが、現時点で色んな結果の論文が出ていることを考えると、関連があってもさほど大きくはないのではないかと考えます。ただ、PPIは様々なリスクに関する報告がありまし、不適切使用の例は多いですので、適正使用を進めていきたいところです。