リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

薬と認知症の関連もろもろ-2【抗コリン薬】

今回は【抗コリン薬】と認知症の関連についての症例対象研究の論文を紹介していきます。

 

まずは1つ目。

Anticholinergic Drugs and Risk of Dementia: Case-Control Study

【抗コリン薬と認知症リスク】

BMJ . 2019 Oct 31;367:l6213.

PMID: 31672847

 

【PECO】

P:英国の家庭医の診療情報を集積したClinical Practice Research Datalinkに含まれる、2006年4月から2015年7月までの間に認知症と診断された65~99歳の患者40,770人と、認知症のない対照者283,933人(最大1:7でマッチング)

E:抗コリン薬の暴露あり

C:抗コリン薬暴露なし

O:認知症の発症(ACBスケール別、薬効別、暴露)

 

デザイン:症例対象研究

マッチングされているか?:性別、出生年(3か月以内)、基準日からの経過年数、居住地域の経済状況

調節された交絡因子:心血管疾患、うつ病、精神疾患、不眠症、パーキンソン病、癌等の既往、喫煙歴、BMI、アルコール乱用等、BZ系薬、Z-drug、抗うつ薬、制吐剤、抗てんかん薬、抗パーキンソン病薬のうち抗コリン作用と評価されたもの

 

【結果】

主要アウトカム【DDDあたりの投与日数別の】

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※認知症と診断される4~20年前の抗コリン薬総使用量を各薬剤の1日投与量(DDD)で除して、DDDあたりの投与日数を算出

ACBスケール(Anticholinergic Cognitive Burden(ACB)Scale):抗コリン作用の程度に応じて1~3に分類したスコア↓

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Score of 1: Evidence from in vitro data that chemical entity has antagonist activity at muscarinic receptor.
Score of 2: Evidence from literature, prescriber’s information, or expert opinion of clinical anticholinergic effect.
Score of 3: Evidence from literature, expert opinion, or prescribers information that medication may cause delirium.

→エビデンスとしての抗コリン作用は1<2<3というイメージ

 

サブ解析

〇ACBスケール別

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〇ACBスケールに含まれる薬剤の薬効群別

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〇服用していた時期とACBスケール別

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【考察】

全体として抗コリン薬と認知症の関連が示唆されました。

投与日数との関連は明確ではありませんが、投与日数が長い方が関連が強く、スケールによる差はあまりないような印象です。薬効群との関連もありそうですが、その疾患と認知症の関連もありそうなので、判断が難しいところです。また、服用していたのがかなり前であっても認知症に影響がある可能性が示唆されたことは驚きでした。

 

 

では2つ目の論文を。

 

Anticholinergic Drug Exposure and the Risk of Dementia: A Nested Case-Control Study

(抗コリン薬と認知症リスク)

JAMA Intern Med. 2019 Jun 24.

PMID: 31233095

 

【PECO】

P:認知症と診断された患者58,769人と55歳以上の対照者225,574人(QResearchのプライマリケアデータベースに登録されているイギリスの一般診療所)(最大1:5でマッチング)

E:抗コリン薬への曝露(認知症診断日またはマッチされたコントロール群におけるそれに相当する日(指標日)の1~11年前の1年間に処方されたの総標準化1日量(TSDD))

C:抗コリン薬への非曝露

O:認知症発症

※抗コリン薬はコチラのeTable1に記載ある56薬剤(Beers Criteria等から抽出したよう)

 

デザイン:コホート内症例対象研究

マッチングされているか?:年齢、性別、general practice,  calendar time using incidence density sampling(パーキンソン病、ハンチントン病、または多発性硬化症の診断を受けていた場合は、コントロールを除外)

調整された交絡因子:BMI、喫煙状況、アルコール摂取量、タウンゼント剥奪スコア(貧困指標)、人種、併存疾患(冠動脈性心疾患、心房細動、心不全、高血圧、高脂血症、糖尿病、脳卒中、くも膜下出血、一過性脳虚血発作、腎不全、喘息、COPD、不安、双極性障害、うつ病、ダウン症候群、重度の学習障害、統合失調症、重度の頭部外傷、認知機能の低下/記憶喪失)、および他の薬物の使用(降圧剤、アスピリン、催眠・抗不安薬、非ステロイド性抗炎症薬、スタチン)など【暴露開始時に評価】

 

【結果】

主要アウトカム【特定期間における抗コリン薬のTSDDs別認知症リスク】

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副次的アウトカム【薬効別】
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※抗ヒスタミン薬、骨格筋弛緩剤、消化管鎮痙薬、抗不整脈薬、抗コリン性気管支拡張薬→有意差なし

※抗てんかん薬→「TSDDs>1095」以外有意差なし

 

【考察】

こちらでも全体として抗コリン薬と認知症リスクの関連が示唆されました。

薬効群に関しては、膀胱抗コリン薬、抗精神病薬のオッズ比の数値の大きさが気になります。

 

 

【全体を通して】

いずれの論文も抗コリン薬服用と認知症発症との関連を示唆する結果となりました。

交絡因子はかなり複雑ですし、論文2つのみですので安易な解釈はできませんが、現時点では関連はありそうな印象です。

薬効群としては膀胱抗コリン薬(泌尿器系)のオッズ比が高めであり、普段の処方でもよく見かけますので、漫然投与とならないように十分に注意していかなければならないと感じました。