今回は【降圧剤】【スタチン】の認知症への影響についての論文を紹介していきます。
それぞれでRCTのメタ解析と観察研究のメタ解析を紹介します。
まずは【降圧剤】の観察研究のメタ解析から。
Association of Blood Pressure Lowering With Incident Dementia or Cognitive Impairment: A Systematic Review and Meta-analysis
(認知機能と認知症と血圧低下との関連)
JAMA . 2020 May 19;323(19):1934-1944.
PMID: 32427305
【PECO】
P:14のRCT(96,158人)
E:降圧薬治療群
C:それぞれの試験のプラセボ群、代替降圧剤群または血圧目標値の高い群
O:認知症の発症率、認知機能の低下
デザイン:RCTのメタ解析
評価者バイアス:2人の著者が独立して抽出。
出版バイアス:言語制限なし。Funnel Plotあり→まずまずOK
元論文バイアス:RCTのメタ解析。
異質性バイアス:若干デザインのずれはあるが…特にCについて。I²=0%
ベースライン:平均(SD)年齢69(5.4)歳、女性40,617人(42.2%)、平均収縮期血圧154(14.9)mmHg、平均拡張期血圧83.3(9.9)mmHg
平均追跡期間:49.2カ月
【結果】
主要エンドポイント【認知機能低下、認知機能障害の複合】
E群 vs C群:7.0%対7.5%,OR 0.93(95%CI:0.88-0.98);絶対リスク減少率(ARR) 0.39%(95%CI:0.09%-0.68%);I²=0%;12試験;n=92,135人
サブ解析
〇認知症の診断基準が各種基準に準じている試験による認知症の診断
E群 vs C群:3.0% vs 3.4%;OR 0.87(95%CI:0.78-0.97);ARR 0.20%(95%CI:0.05%-0.70%); I²=0%;7試験;n=41,719
〇認知機能の低下(種々のスコアにて試験ごとに判断)
E群 vs C群:20.2%対21.1%;OR 0.93(95%CI:0.88-0.99);ARR 0.71%(95%CI:0.19%-1.2%);I²=36.1%;8試験; n=67,476
【考察】
降圧剤による治療にて有意に認知症リスクが低下することが示唆されました。ただARRを見ると0%台と言うことで、さほど大きな差はないように思います。
異質性は比較的低く、RCTのメタ解析ということもあり、比較的信頼できる結果なのではないかと思います。
次は、【降圧剤】の観察研究のメタ解析を。
Antihypertensive Medications and Risk for Incident Dementia and Alzheimer's Disease: A Meta-Analysis of Individual Participant Data From Prospective Cohort Studies
(降圧薬と偶発的な認知症およびアルツハイマー病のリスク)
Lancet Neurol. 2020 Jan;19(1):61-70.
PMID: 31706889
【PECO】
P:55歳以上の認知症のない高血圧患者(n=15,537)または正常血圧患者(n=15,553)
E:降圧薬使用
C:降圧薬非使用
O:(降圧薬の種類別の)認知症またはアルツハイマー型認知症発症
※認知症3,728人、アルツハイマー病1,741人の診断
デザイン:前向きコホート研究のメタ解析(6試験;n=31,090;追跡期間の中央値7-22年)
【結果】
主要アウトカム
〇高血圧患者
認知症の発症:HR 0.88;95%CI:0.79-0.98
アルツハイマー病の発症:HR:0.84;95%CI:0.73-0.97
※降圧剤の種類による有意差なし
〇正常血圧患者
認知症の発症、アルツハイマー病の発症に有意差なし
【考察】
アブストラクトのみしか読めなかったので、詳細が不明ですが。
こちらでは高血圧患者群への高血圧投与にて認知症リスクが有意に減少しておりました。一方、正常血圧患者では有意差が認められておりません。
次は【スタチン】のRCTのメタ解析を。
Statins for the Prevention of Dementia
(認知症予防のためのスタチン)
Cochrane Database Syst Rev . 2016 Jan 4;(1):CD003160.
PMID: 26727124
【PECO】
P:血管疾患の既往歴または危険因子を有する40歳から82歳までの26,340人(70歳以上:11,610人)
E:スタチン服用
C:スタチン非服用
O:認知症発症
デザイン:メタ解析の予定だったが、2試験のみ該当(認知症発症についてのアウトカムは1試験のみ)にて実施できず
【結果】
主要アウトカム【認知症発症リスク】
E群 vs C群:オッズ比(OR) 1.00;95%CI:0.61-1.65;1試験;n=20,536人;平均追跡期間5年;各群31例が認知症を発症
【考察】
1件しか含まれおりませんでしたので、RCTを読んだ方が良かったかもしれませんが、該当のRCTは本文が読めず、アブストには認知症に関する結果が書かれておりませんでした。(Lancet . 2002 Jul 6;360(9326):7-22. PMID:12114036/)
ちなみにスタチンはシンバスタチンだったようです。
95%信頼区間が広く、認知症の発症数はかなり少ないのであくまでも参考程度かと思います。
次は【スタチン】の観察研究のメタ解析を。
Association Between Use of Statin and Risk of Dementia: A Meta-Analysis of Observational Studies
Neuroepidemiology. 2019 Oct 1:1-13.
PMID: 31574510
【PECO】
P:18歳以上の参加者数9,162,509人(認知症患者84,101人)
E:30日以上のスタチン投与
C:スタチン非投与
O:認知症、アルツハイマー病、血管性認知症リスク
デザイン:30の観察研究(23のコホート研究、7の症例対照研究)のメタ解析
評価者バイアス:2人の評価者が独立して行っている
出版バイアス:言語は英語のみ。Funnel Plotあり→問題なし
元論文バイアス:観察研究のメタ解析
異質性バイアス:I²はいずれの解析も40%~60%台とやや高め。ブロモグラムは参加者の少ない試験はばらつきがあるが、参加者の少ない試験は概ね一致しており、その結果に引っ張られている印象。
Limitation:研究集団の人口統計学的および民族的特徴、サンプルサイズ、研究デザイン、追跡期間、スタチン使用と認知症リスクの大きさの試験間の相違にて異質性が高め。認知症リスクに影響を与える可能性のある併存疾患、薬剤、BMI、喫煙状況の違いなどの重要な変数のデータ不足。
【結果】
主要アウトカム【全認知症リスク】
E群 vs C群:リスク比[RR] 0.83;95%CI:0.79-0.87;I²=57.73%;30試験;n= 9,162,509
※コホート研究:RR 0.84;95%CI:0.79–0.88;I²=54.58%;23試験
※症例対照研究:RR 0.67;95%CI:0.55–0.87;I²=77.32%;7試験
副次的アウトカム
〇アルツハイマー病リスク
RR 0.69;95%CI:0.60-0.80;I²=47.59%;20試験
〇血管性認知症リスク
RR 0.93;95%CI:0.74-1.16;I²=53.3%;4試験
【考察】
前認知症リスクの低下が示唆され、認知症の種類別ではアルツハイマー病の大幅なリスク低下も示唆されましたが、血管性認知症は有意な低下とはなりませんでした。スタチンとしての効果が得られているのであれば、血管性認知症リスクが減るのではないかと考えていたのですが…
正確な絶対数の差は分かりませんが、全体で1%弱しか認知症の診断を受けていないことを考慮すると、両群に絶対数としての差はほとんどないのではないかと思います。あくまでも副次的な効果という印象です。
異質性はやや高めではありますが、ブロモグラムは概ね一致しているのでさほど問題ではないように思います。
【全体を通して】
降圧剤を用いての高血圧の治療やスタチンを用いた治療にて全体としての認知症のリスクが低下することが示唆されました。しかしいずれにおいても絶対差はわずかであり、あくまでも副次的な効果という印象ですので、認知症予防効果を目的に使うのは好ましくないと思います。ただ、対象者を高齢者に限定したり、追跡期間をもっと長期にすれば絶対差は広がるのかもしれません。
もしアドヒアランスが悪い患者さんがいたら、プラスで伝えてあげると改善したりするかもしれません。