リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

サルコペニアを改善するかもしれない薬剤もろもろ-3(スタチン)

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今回はサルコペニア診療ガイドラインに記載のあるものの中からスタチンについての論文を読んでいきます。

 

Association between statin medication use and improved outcomes during inpatient rehabilitation in older people.

(高齢患者の入院リハビリ間のアウトカム改善とスタチン使用との関連)

Age Ageing. 2012 Mar;41(2):260-2.

PMID: 22156557

【PECO】

P:入院中にリハビリをした3422人( 平均年齢(スタチン群79歳、非スタチン群82歳,<0.001))

E:スタチン服用(690人)(20ポイントBarthel Indexスコア 10.4)

C:スタチン非服用(2732人)(20ポイントBarthel Indexスコア 10.3)

O:入退院時における20ポイントBarthel Indexスコアの改善の差

 

デザイン:後ろ向きコホート研究

マッチング:されていない

調整された交絡因子:年齢、性別、ベースラインのBarthel Indexスコア、並存疾患

 

【結果】

主要アウトカム(調整後の入退院時における20ポイントBarthel Indexスコアの改善の差)

〇E群 vs C群:4.3 versus 3.6 pts;絶対差 0.6;95%CI:0.3-0.9

副次的アウトカム

〇調整後の入院日数

スタチン投与群で1.0日長い; 95%CI -1.0〜3.1日

〇調整後の患者の自宅以外の目的地への退院リスク

スタチン投与群で低い(調整相対リスク0.84;95%CI:0.65-1.09)

 

【感想】

0.6pt差というのがどこまで意味のある差なのか、と考えると…

この試験だけではなんとも言えないような…

 

もう一つ。

Association between statin use at admission to inpatient rehabilitation and functional status at discharge among older patients.

(高齢者における入院患者のリハビリでの入院時のスタチンの使用と退院時の機能的状態の関連)

Rejuvenation Res. 2014 Dec;17(6):490-5.

PMID: 25268518

【PECO】 

P:急性期の入院後に院内リハビリテーションに連続して入院した70歳以上の高齢患者2435人(平均年齢:スタチン群77.9歳、非スタチン群81.2歳,P=0.01)

E:スタチン服用群(220人)

C:スタチン非服用群(2215人)

O:退院時の機能的状態としての100ポイントBarthel Indexスコアの改善

 

デザイン:後ろ向きコホート研究

マッチング:されていない

調整された交絡因子:慢性内科的疾患(高血圧、心臓、血管、肝臓、腎臓、筋肉、神経、行動特性)、重症度を含めた指数、年齢、性別、リハビリテーション入院時に収集された変数(せん妄、ACE阻害薬、β遮断薬、アスピリン)、入院時とリハビリ入院前の合計100ポイントBarthel Indexスコアの差

 

【結果】

主要アウトカム(調整後の退院時の機能的状態の改善)

〇E群 vs C群:ポイント推定値5.2pt; 95%CI:1.5-8.9

 

副次的アウトカム(その他各種薬剤による改善)

〇入院時のACEI服用:3.6pt;95%CI:1.4-5.8

〇入院時のアスピリン服用:5.1pt;95%CI:2.5-7.6

〇入院時のβブロッカー服用:6.3pt;95%CI:3.9-8.8

 

【感想】

スタチン群で5ポイントの改善がみられましたが、他のたくさんの薬剤でも改善が認められております。

スタチン服用が1割くらいと少なすぎますし…

よく分からない…

 

 

次は逆に悪い影響がみられたという論文を。

Statin therapy, muscle function and falls risk in community-dwelling older adults.

QJM. 2009 Sep;102(9):625-33.

PMID: 19633029

【PECO】

P:合計774人の地域の高齢者(平均年齢62歳)

E:スタチン服用患者

C:スタチン非服用患者

O:体肢除脂肪量(%ALM)、脚力、脚の筋肉の質(LMQ;特定の力)、転倒リスクの差

 

デザイン:前向きコホート研究

追跡期間:2.6年

※スタチンの服用はベースライン時は147人(19%)、追跡時は179人(23%)

 

【結果】

〇ベースラインでのスタチン使用は転倒リスクスコアの増加を予測し(0.14;95%CI:0.01-0.27)、%ALMの増加傾向(0.45%;95%CI -0.01 to 0.92)を明らかにした。

〇ベースラインから追跡時までのスタチン使用者はコントロールと比較して下肢筋力の低下(-5.02 kg;95%CI -9.65 to -0.40) 、LMQ(-0.30 kg/kg;95%CI:-0.59 to -0.01)を示し、転倒リスク増加の傾向が見られた(0.13;95%CI:-0.01 to 0.26)。

〇スタチン使用者はベースライン時とフォローアップ時の両方で、追跡期間にスタチンを中止した群と比較して下肢筋力の低下(-16.17 kg;95%CI -30.19 to -2.15) 、LMQ(-1.13 kg / kg;95%CI:-2.02 to -0.24)を示した。

 

【感想】

結果に記載したものはアブストラクトの記載から引っ張ってきたのですが、本文の結果をみると”いいとこどり”な気もします。有意差がついていない項目が多く、どちらかというと有意差がついている項目が偶然な気も。特にスタチン中止群はn数が少なく、あまり参考にしない方がいいような。

 

【全体を通して】

正直、よく分からないです。この他にもいくつか同様にことを検討した研究があるようですが、はっきりとした結果は出ていないようです。しっかりとした評価をするには、質の高い試験が必要かと思います。

スタチンとサルコペニアの関連については、「スタチンによるミオパチーで悪影響を与える」と考えるのが一般的かとは思いますが、サルコペニアが改善するとなると、どういった機序が考えられるのか気になります。

 

 

今回はこのあたりで。

また何か新しい知見があれば取り上げていきたいと思います。