さて、今回は「ADVANCE」「CASE-J」「ONTARGET」の3つの論文を紹介していきます。
まずは「ADVANCE」試験。
Effects of a fixed combination of perindopril and indapamide on macrovascular and microvascular outcomes in patients with type 2 diabetes mellitus (the ADVANCE trial): a randomised controlled trial.
Lancet. 2007 Sep 8;370(9590):829-40.
PMID: 17765963
循環器トライアルデータベース→http://circ.ebm-library.jp/trial/doc/c2002594.html
【PECO】
P:11140人の2型糖尿病患者
E:現在の治療に加えてペリンドプリル+インダパミド(5569人)
C: プラセボ群(5571人)
O:大血管障害(心血管死、非致死性脳卒中または非致死性心筋梗塞)、微小血管症障害(腎症、糖尿病性網膜症の新規発症または悪化)の複合
デザイン:2重盲検RCT
平均年齢:66歳
追跡期間:4.3年
アブストラクトのみ or 全文:アブストのみ
【結果】
主要アウトカム
〇E群 vs C群:15.5% vs 16.8%;ハザード比(HR) 0.91(95%CI:0.83-1.00))
副次的アウトカム
〇大血管イベント:HR 0.92(0.81-1.04)
〇微小血管イベント:HR 0.91(0.80-1.04)
〇心血管死:3.8% vs 4.6%;HR 0.82(0.68-0.98)
〇総死亡:7.3% vs 8.5%;HR 0.86(0.75-0.98)
【感想】
主要アウトカムは複合が過ぎるので、あまり参考にしなくてもいいとして…
心血管死や総死亡は有意に減少しているが、4.3年間追跡した結果の差としては小さく、これをもって服薬した方がよいとは一概には言えないかと。
また、今回は高血圧以外の糖尿病患者も対象としているため、腎症の悪化や新規発症も重要なアウトカムとして捉えられるかもしれないです。循環器トライアルデータベースには21%減少(NNT20)との記載があるが、4.3年の追跡としてはインパクトが少ないように感じます。
次は「CASE-J」試験。
Effects of candesartan compared with amlodipine in hypertensive patients with high cardiovascular risks: candesartan antihypertensive survival evaluation in Japan trial.
Hypertension. 2008 Feb;51(2):393-8.
PMID: 18172059
循環器トライアルデータベース→http://circ.ebm-library.jp/trial/doc/c2002499.html
【PECO】
P:心血管リスクの高い日本人高血圧患者4703人(平均年齢63.8歳、平均BMI24.6)
E:カンデサルタン群(2354人)
C:アムロジピン群(2349人)
O:初回の致死的または非致死的心血管イベント(突然死:外的要因なしで24時間以内に起こった予期せぬ死、脳血管イベント:脳卒中または一過性虚血性発作、心イベント:心不全、狭心症、または急性心筋梗塞、腎臓イベント:血清クレアチニン濃度4.0mg/dL、血清クレアチニン濃度2倍(2.0mg/dL未満は含まない)、末期腎臓病、血管イベント:解離性大動脈瘤,末梢動脈の動脈硬化性閉塞)
デザイン:PROBE
平均年齢:63歳
追跡期間:平均3.2年
アブストラクトのみ or 全文:全文
【結果】
カンデサルタン群 |
アムロジピン群 |
ハザード比 (95%CI) |
|
主要アウトカム(Oに記載) |
5.7% |
5.7% |
1.01(0.79-1.28) |
脳卒中 |
2.5% |
2.0% |
1.28(0.88-1.88) |
心不全 |
0.8% |
0.7% |
1.25(0.65-2.42) |
心筋梗塞 |
0.7% |
0.8% |
0.95(0.49-1.84) |
総死亡(/1000人/年) |
9.4 |
11.1 |
有意差なし |
新規糖尿病発症 (/1000人/年) |
8.6 |
13.6 |
0.64(0.43-0.97) |
高K血症 |
1.0% |
0.3% |
⁻ |
【結果】
いわゆる「ゴールデンクロス」が物議を醸したCASE-Jです。
武田製薬の後援&PROBE試験&主要アウトカムが複合過ぎるということで怪しさ満載なわけですが。
アウトカムとしては、新規糖尿病発症の減少が目立った印象。ただ、年間0.5%の差なので、長期間で捕らえると意味のある差になるかもしれませんが…(ベースラインで4割が糖尿病なので、非糖尿病患者だけでみるともっと差があるのかもしれませんが)
最終的な血圧は両群で同じくらいですが、他の降圧剤の併用は、E群42.7%、C群54.5%と明らかにカンデサルタン群にて多かったようで。
主要エンドポイントのカプランマイヤー曲線であるFig3を見ると、最初はアムロジピン群でイベントが少ないように見えますが、徐々に同じくらいになっていくという、ちょっと不思議な感じ。むしろアムロジピンの方がいいのではと思ってしまいました。
最後は「ONTARGET」試験。
Telmisartan, ramipril, or both in patients at high risk for vascular events.
N Engl J Med. 2008 Apr 10;358(15):1547-59.
PMID: 18378520
循環器トライアルデータベース→http://circ.ebm-library.jp/trial/doc/c2002419.html
【PECO】
P:心不全のない血管疾患または糖尿病のあるハイリスクな患者25,620人
E:テルミサルタン80mg/日群(8542人)、両剤併用群(8502人)
C:ラミプリル10mg/日群(8576人)、
O:心血管イベントによる死亡、心筋梗塞、脳卒中、心不全入院の複合
デザイン:PROBE
平均年齢:66歳
追跡期間:中央値56か月
アブストラクトのみ or 全文:全文
【結果】
ラミプリル群 |
テルミサルタン群 |
併用群 |
テルミ vs ラミプ |
併用 vs ラミプ |
|
リスク比(95%CI) |
|||||
主要アウトカム(Oに記載) |
16.5% |
16.7% |
16.3% |
1.01 (0.94-1.09) |
0.99 (0.92-1.07) |
心血管イベントによる死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合 |
14.1% |
13.9% |
14.1% |
0.99 (0.91-1.07) |
1.00 (0.93-1.09) |
総死亡 |
11.8% |
11.6% |
12.5% |
0.98 (0.90-1.07) |
1.07 (0.98-1.16) |
有害事象 |
ラミプリル群 |
テルミサルタン群 |
併用群 |
テルミ vs ラミプ |
併用 vs ラミプ |
リスク比(P値) |
|||||
低血圧 |
1.7% |
2.7% |
4.8% |
1.54 (<0.001) |
2.75 (<0.001) |
咳 |
4.2% |
1.1% |
4.6% |
0.26 (<0.001) |
1.10 (0.19) |
【感想】
ACEIとARBのどちらを優先するかというのは議論が分かれる部分ではありますが、今回はエンドポイントとしての差は認められなかったようです。少なくとも、併用の意義は示せなかったと言ってもいいと思います。
ACEIを使用する上で、副作用としての咳には十分な注意が必要そうです。併用群で注意すべき高K血症が漏れているのは気になるところです。
テルミサルタンの発売メーカーであるベーリンガーの後援があり、PROBE試験ということで解釈に注意が必要です。
今回は以上になります。