リンコ's ジャーナル

病院薬剤師をしています。日々の臨床疑問について調べたことをこちらで綴っていきます。

血圧の有名論文もろもろー6(「COPE」「OSCAR」「SPRINT」)

今回は「COPE」「OSCAR」「SPRINT」の3つの論文を紹介していきます。

 

まずは「COPE」試験。

Prevention of cardiovascular events with calcium channel blocker-based combination therapies in patients with hypertension: a randomized controlled trial.

J Hypertens. 2011 Aug;29(8):1649-59.

PMID: 21610513

循環器トライアルデータベース→http://circ.ebm-library.jp/trial/doc/c2005149.html

【PECO】

P: 40-85歳でベニジピン4mg/日にて目標血圧(140/90mmHg)を達成していない高血圧患者

E/C:ベニジピンに加えて①ARB(1110人)、②β遮断薬(1089人)、③サイアザイド系利尿剤(1168人)

O:突然死、致死的・非致死的脳卒中、致死的・非致死的心筋梗塞(MI)、不安定狭心症による入院、NYHA心機能分類II~IV度の心不全、末梢動脈疾患の新規発症・増悪、腎イベントの複合

 

デザイン:PROBE

平均年齢:63歳

追跡期間:中央値3.6年

アブストラクトのみ or 全文:アブストラクトのみ

 

【結果】

主要アウトカム

〇心血管複合エンドポイント:①41人(3.7%)、②48人(4.4%)、③32人(2.9%)

① vs ③:HR 1.26(P=0.3505)

② vs ③:HR 1.54(P=0.0567)

副次的アウトカム

〇致死的または非致死的脳卒中:③vs②:有意に減少(P = 0.0109)

〇新規糖尿病発症:①vs③:有意に減少(P = 0.0240)

 

【感想】

ARB群、β遮断薬群に比べてサイアザイド系利尿剤群の方が主要アウトカムの発生が低い傾向にあるのは興味深いが、そのアウトカム自体がごちゃ混ぜの複合なので、どこまでの意味があるのか…

βブロッカーをあえて使用する必要はない印象です。

 

 

次は「OSCAR」試験。

Angiotensin II receptor blocker-based therapy in Japanese elderly, high-risk, hypertensive patients.

Am J Med. 2012 Oct;125(10):981-90.

PMID: 22503610

循環器トライアルデータベース→http://circ.ebm-library.jp/trial/doc/c2005259.html

【PECO】

P:2型糖尿病または心血管疾患の2型糖尿病の65-84歳の1164人の高血圧患者

E:オルメサルタン40mg/日(578人)

C:カルシム拮抗薬+オルメサルタン20mg(586人)

O:心血管イベントと非心血管死の複合

 

デザイン:PROBE

平均年齢:73.6歳

追跡期間:中央値3年

アブストラクトのみ or 全文:アブストラクトのみ

 

【結果】

主要アウトカム

〇E群 vs C群:58/578人 vs 48/586人, ハザード比[HR] 1.31(95%CI:0.89-1.92)

※アブストラクトのみでは情報が少なすぎたので、循環器トライアルデータベースより補足を。

〇他の降圧薬の追加:E群の方が多かった(6か月後:26.2% vs 12%、3年後:40.7% vs 23%)

〇3年後の平均血圧:E群(135.0/74.3mmHg)、C群(132.6/72.6mmHg)

〇目標血圧達成率:C群のほうが高かった(62.1% vs 70.5%)(p=0.003)

 

【感想】

副作用の増加、服薬コンプライアンスの低下の懸念がないようであれば、併用療法を選択した方がいいのではないかと思います。

 

 

最後は「SPRINT」試験。

A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control.

N Engl J Med. 2015 Nov 26;373(22):2103-16.

PMID: 26551272

循環器トライアルデータベース→http://circ.ebm-library.jp/trial/doc/c2005525.html

【PECO】

P:収縮期血圧が 130 mmHg 以上で心血管リスクが高いが糖尿病ではない 9,361 人

E:収縮期血圧の目標値を 120 mmHg 未満とする群4678人(強化治療群)

C:140 mmHg 未満とする群4683人(標準治療群)

O:心筋梗塞、その他の急性冠症候群、脳卒中、心不全、心血管系の原因による死亡の複合

 

デザイン:PROBE

平均年齢:67.9歳

追跡期間:中央値3.26年

アブストラクトのみ or 全文:全文

Limitation:50歳未満、糖尿病患者、脳卒中の既往、介護施設入所者が除外されていること。強化療法群の半数以上が120mmHg未満を達成できなかったこと。強化療法群では平均して降圧剤1剤の追加が必要で、投薬コストや通院の負担の問題があること。

 

【結果】

 

強化療法

(年間発生率)

標準療法

(年間発生率)

ハザード比

(95%CI)

主要アウトカム(Oに記載)

1.65%

2.19%

0.75(0.64-0.89)

心筋梗塞

0.65%

0.78%

0.83(0.64-1.09)

脳卒中

0.41%

0.47%

0.89(0.63-1.25)

心不全

0.41%

0.67%

0.62(0.45-0.84)

心血管死

0.25%

0.43%

0.57(0.38-0.85)

総死亡

1.03%

1.40%

0.73(0.60-0.90)

 

重篤な有害事象

強化療法

(発生率)

標準療法

(発生率)

ハザード比

(P値)

低血圧

2.4%

1.4%

1.67(0.001)

Injurious fall

2.2%

2.3%

0.95(0.71)

急性腎障害・腎不全

4.1%

2.5%

1.66(<0.001)

電解質異常

3.1%

2.3%

1.35(0.02)

Na<130mmol/L

3.8%

2.1%

1.76(<0.001)

K<3.0mmol/L

2.4%

1.6%

1.50(0.006)

K>5.5mmol/L

3.8%

3.7%

1.00(0.97)


〇使用降圧剤数:E群2.8剤、C群1.8剤

〇血圧の変化:E群(ベースライン139.7/78.2、1年後121.4/68.7、追跡終了時121.5/不明)、C群(ベースライン139.7/78.0、1年後136.2/76.3、追跡終了時134.6mmHg /不明


【感想】 

今までは薬剤による違いを見る試験が多かったですが、今回は降圧目標による違いでした。有意差はついていながらも、1年間の差でみると微々たる差のような気がします。ただ、降圧剤は長期に内服することが多いので、10年以上の単位でみていくと大きな差になっていくのではないかと思います。

他の試験も参考にしていきたいですし、高齢者、フレイルでのサブ解析もあるようなので、またそれも読んでいきたいと思います。

 

 

今回は以上です。